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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)26号 判決

一 特許庁における本件審判手続の経緯、本件特許発明の特許出願、設定登録の各日およびその要旨、本件審決の理由の要旨についての請求原因第一項ないし第三項の事実は、すべて当事者間に争いがない。

二 当事者間に争いのない本件特許発明の要旨は「ブレーキシユーを左右均等に押圧拡張せしめるに適すべく、カムの内部摺動円弧面を一側に向つて半径率を漸次小ならしめて形成したことを特徴とする内拡式ブレーキの開拡カム」(別紙図面参照)にあるところ、成立に争いのない甲第二号証(本件特許発明の特許公報)によれば、本件特許発明は、開拡カムの内部摺動円弧面の半径率を一側(別紙図面においては右)へ向つて漸次小ならしめるように切除形成することによりブレーキシユーの左右均等な開拡をはかるものであること、これを別紙図面によつてみるのに、開拡カム(5)をある角度右に旋回すれば、第三図のとおり、突起(4)(4´)は左右に押圧拡張されるので、突起(4)(4´)の摺動面の延長線が軸線X´Y´に対してなす角をαβにて表わすと、均等開拡にはLα=Lβなる関係が必要であり、開拡カム(5)の中心より接点までの距離は、ブレーキシユーの支点(第一図の支持突子(8))に近いrkは遠いrよりも小なる値でなければならないこと、すなわち、突起(4)(4´)のカム(5)との二つの接点より軸線X´Y´に下した垂線の長さは支点に近い方が遠い方より短かくなければならず、したがつて、rkは、開拡カムの旋回角度との〇度と九〇を除いては、終始変動せしめることが必要であり、このゆえに、開拡カムの旋回するに応じて、一部半径が変動する(αβを常に等しくさせるために)ように、カムの内部摺動円弧面の半径をr>r1>r2>r3>……>rk……となるように切除して形成せしめること、本件特許発明においては、カム(5)を右に回動すれば、ブレーキシユーの突起(4)(4´)は左右均等に開拡されるので、ライニング(3)の両端寄りの部分がドラム内周壁(12)に摺動し、ライニングの全周がほぼ一様にかつ無理なく円滑に制動にあずかることとなり、ブレーキの耐久力も増加するなどの作用効果を収めることが認められる。

三 成立に争いのない甲第四号証(引用ブレーキカムについての改訂伝票)、同甲第五号証の一(甲第四号証にもとづくカム製作図面)、同甲第六号証(引用ピジヨンニユース)および同乙第一号証(口頭審理調書)によれば、引用ピジヨンニユースは、本件特許発明の出願日(昭和二八年一〇月一一日)前の日である昭和二七年一二月二五日頃国内に頒布された刊行物であるところ、これには、内拡式ブレーキの開拡カムについて、ブレーキの効きを良くするためのカムの調整加工方法を示し、カムの内側の角のRすなわち内部摺動円弧面を3Rのところより6R程度にまですり落し、一方、外側の角のRすなわち外部摺動円弧面は3Rのままとし、加工せず、右加工の後組立てに当つては、6R(程度)側が内側になるよう特に注意しなければならず、これが誤つて外側にされると、ブレーキの効きがかえつて従前より悪くなると記載されていること、右のように加工する理由は、カムを操作した場合、左右のブレーキシユーが同時にブレーキドラムに当るか、または、車輪の回転方向と同方向に回転する方のブレーキシユーが他方のブレーキシユーより先にブレーキドラムに当るようにするためであること、引用ピジヨンニユース記載による調整加工のカムは、その外部摺動円弧面を3R、内部摺動円弧面を6R程度としたものであり、引用ブレーキカムすなわち外部摺動円弧面を3R、内部摺動円弧面を6Rとしたものを含むが、これに限られるものでないことおよび右摺動円弧面は、いずれもその中心をカムの回転中心とは異なるところにもつ円周面によつて形成されているが、この円周面をカムの回転中心よりみるときは、一側に向つて半径率を漸次小ならしめるようにした円弧面といいうべきものであることが認められる。

右認定事実によれば、引用ピジヨンニユースには、ブレーキシユーに対するカムの内部摺動円弧面を、その外部摺動円弧面との相関関係において、一側に向つて半径率の減少する度合がより大きいように形成して、左右のブレーキシユーがブレーキドラムに同時に当るようにしたもの、すなわち、ブレーキシユーが左右均等にブレーキドラムに働き、ブレーキ作用をする内拡式ブレーキの開拡カム(以下引用ピジヨンニユースのカムという。)をも記載していることが明らかである。

四 本件特許発明の開拡カムを引用ピジヨンニユースのカムと対比して考察するに、両者は、ともに、左右のブレーキシユーを均等に押圧拡張させるに適すべく、カムの内部摺動円弧面を一側に向つて半径率を漸次小ならしめて形成したことを特徴とする内拡式ブレーキの開拡カムであつて、一致していることが明らかである。もつとも、両者は、場合によつて、カムの摺動円弧面の形状において、厳密には一致しないこともありうることが二および三の項において前示したところに徴し考えられるが、本件特許発明は、この点については、その要旨において、カムの内部摺動円弧面を一側に向つて半径率を漸次小ならしめるとの限定を有するだけであり、この限度では、引用ピジヨンニユースのカムと一致しているし、そのほか、本件特許発明についての前認定の作用効果も、左右ブレーキシユーの均等開拡が得られる以上当然に奏するものであるし、右均等開拡が達せられるときは、車輪の順逆回転によりブレーキの効果に差異を生じないことも明らかであるから、いずれにしても、両者間に差異を認めえない。原告は、本件特許発明は、引用ブレーキカムないし引用ピジヨンニユースの記載から当業者の容易に実施しうるものではないとして種々主張するところがあるが、右に直接判断したもののほか、その採用しえないことは、以上によりおのずから明らかである。したがつて、本件特許発明は、引用ピジヨンニユースのカムと一致し、その出願前国内に頒布された刊行物に容易に実施しうる程度に記載されていたものというべきである。

五 右のとおりであつて、本件審決について、原告主張のような違法があるとしてその取消を求める原告の本訴請求は、理由のないことが明らかであるから、これを棄却する。

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